AIってほんとに仕事を奪うの?元エンジニアが考えるAIの近未来

AIってほんとに仕事を奪うの?元エンジニアが考えるAIの近未来

2015年頃から露出が急増し、2017年に入ると一躍トレンドキーワードとなった「AI」という言葉。私はIT業界の出身で、さまざまなシステムを見てきた経験上、この流れに多少困惑しています。なぜならば、「猫も杓子もみなAI」という状況があるからです。また、まるでSF映画のような未来を予測する記事もあれば、「あくまでも計算機」というスタンスをとる記事もあり、情報が錯綜しています。本当に人間の、そしてwebライターの仕事はAIに奪われるのでしょうか。

AIを考える前に「産業革命」を知ろう

産業革命という言葉をご存じでしょうか。社会科の教科書に出てきますよね。18世紀から19世紀の欧州で巻き起こった、技術革新とそれに伴う社会構造の変化を指す言葉です。発端は18世紀末のイギリス。当時の欧州では「機械に仕事を奪われる」という噂が横行し、職人たちが機械を打ち壊してしまうという事件が多発したといわれています。ちなみに、「時給制」が本格的に導入されたのは産業革命期の工場で、いわゆる「オン・オフ(仕事とプライベート)」が分かれ始めたきっかけでもあります。仕事と余暇がはっきりと分離されたことで、リゾートなども発達しました。

一方で、一部の資本家が先進的な技術と労働力を独占し、貧富の格差が拡大したというデメリットもあります。また、機械化によって熟練工は必要なくなり、労働者は安く使い捨てられ、都市部に集中する人口を支えられずに住環境が悪化しました。今、「AI」の登場を不安視する考えの多くが、この産業革命期のデメリットと同じです。AIのような革新的な技術の登場は、常に産業革命期の欧州と同じ状況を人々にイメージさせ、不安を煽ってしまいがちともいえます。

現在の「AI」は大半が既存の技術

産業革命のお話は一旦おいておき、AIの話を進めるとしましょう。実は、2017年時点で世間の話題となっているAIの大半が「既存の技術」です。AI研究は、1960年代(1956年から1970年頃まで)の第1次AIブーム、そして1980年代の第2次AIブーム、2010年以降に巻き起こった現在の第3次ブームという歴史があります。

第1次ブームでは「推論・探索」がキーワードで、「探索木」という考え方が代表的です。ある課題に対する解決法を見つけるとき、一点から出発して枝のように分岐を広げていき、最終的に出現した解決法にたどり着くまでの様子が木のようであることから、こう呼ばれています。よくニュースになっているチェスや将棋のAIは、基本的にこの探索木の仕組みを使っていると考えてください。ちなみに、チェス⇒将棋⇒囲碁の順に必要な「場合の数」が多いため、最初はチェス(場合の数10の120乗)を制覇し、次は将棋(10の220乗)、2017年は囲碁(10の360乗)というようにAIが進撃を続けています。これは、AIが進化しているというよりも、ハードウェアの性能が上がっているだけともいえます。チェスよりも将棋、将棋よりも囲碁のほうが探索ルートは多いため、単純にたくさんの処理を早くこなせるだけに過ぎないと考えて良いでしょう。

このように、50年以上前の理論をもとに現在のAIは構築されていて、特段目新しい技術ではありません。採算が合わなかったり、ハードウェアの性能が低かったりして、実現する意味がない(もしくは役に立たない)と考えられていたものを現実化しているに過ぎないという側面があるのです。

AIのブレイクスルーとなった「ディープラーニング」

では、なぜまたAIブームが到来したかといえば、50年ぶりのブレイクスルーといわれる「ディープラーニング」が登場したからです。ディープラーニングとは何なのでしょうか。簡単に説明すると、「一定量のデータから特徴を見つけ、概念を獲得する学習機能」となります。これでも少し難しいですよね。例えば私たちが鳥を鳥だと認識するとき、鳥の特徴だけを意識しているわけではありません。羽があるとか、毛が生えているとかといったものは単なる特徴です。私たちはこういった特徴のほかに、「概念」を持っています。絵を描くのが得意な人は「鳥であるとわかるように表現すべきもの」を意識しているのではないでしょうか。これが概念だと考えてもらっていいでしょう。

第3次AIブームの核となる「ディープラーニング」は、膨大なデータから概念を獲得することができる技術として注目されています。また、これに加えてAIの処理を支えるハードウェアの進化、クラウドなど利便性の高いサービスの成熟、ビッグデータの集積など、周辺の技術が整ったということもあります。しかし、核となるのはあくまでも「ディープラーニング」です。

これまで「仕事」として認識されなかったことが仕事になる

少し難しい話が続きましたが、「世に出ているAIはかなり昔の技術である」「新しいAIの技術としてディープラーニング(概念の獲得)がある」とざっくり考えてください。これらを踏まえ、産業革命期の状況も交えながら、「AIは仕事を奪うのか」を考えてみましょう。結論から述べると、「仕事を奪うというよりも、仕事そのものの認識が変わる」というのが私の見解です。産業革命期後には、多くの仕事が無くなった一方で新たな仕事が生まれました。例えば、機械のメンテナンス要員や鉄道機関車の運転手などは、産業革命以後に登場した仕事です。このように、技術革新は既存の仕事を奪う一方、新たな仕事を創出するものでもあります。

また、AIが可能とする仕事の多くは「現象の一部」となり、仕事そのものへの考え方が変わっていくと思います。蛇口をひねれば水が出るし、スイッチを押せば電灯がつきますよね。これらは機械が行っている仕事であって、タンクから人間が水を運んでいるわけでも、電気を流しているわけでもありませんよね。技術の進化がもたらした、便利な現象です。こういった現象のなかへと仕事が溶け込んでいくのではないかということです。そして新たに、AIが支える現象を、さらに効率化して改善する仕事が生まれるのではないでしょうか。

ライターの仕事はどうなのか

ライターの仕事は、すでに一部がAIライターによって自動化されています。事実、AP通信では、マイナーリーグの試合要約をAIライターに任せています。また、自動翻訳の分野でも必要十分な性能を発揮するAIが登場しており、言い回しや細かいニュアンスにこだわらなければ、十分実用的な範囲です。したがって、単に事実を言い換えるだけ、まとめるだけのライターは淘汰されるかもしれませんね。しかし、AIライターを全ての分野に適用するためにはコストがかかります。加えて、膨大な情報から概念を獲得し続け、それらをアイディアや問題意識に繋げるためには、ベースとなる処理能力を飛躍的にアップさせる必要があるでしょう。

例えば、量子コンピュータの成熟がこれに該当し、実現までには相当な時間を要します。つまり、着眼点やアイディアの創出については、当分の間ヒトが担うことになりそうです。ライターとして生き残るためのヒントは、このあたりに存在するといえるでしょう。

こぶたのまとめ

私は、ディープラーニングによって強く新しいAIが登場したとしても、ライターとして生き残る道は十分にあると考えています。ライターとして活躍し続けるには、書き手として大切な「モチベーション」や「問題意識」がAIとの差別化に大きな役割を果たすでしょう。AIの普及で知識の格差が無くなったとき、人間の価値を決めるのはこの2つです。つまり、モチベーションを維持しやすく、問題意識を感じやすい分野に特化して活動することが、AI社会を生き残るライターとして必要なことといえそうです。

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みんなの感想文

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  • AIの発達は私達の思っている以上に進んでいて、今後AIによってなくなってしまうと考えられる職業もある中でライターは完全にはなくならないのではないかと感じました。なぜなら人はアイデアを生んだり意思を持ったりできることからAIとは違った伝え方や想いを込めた文章が書けると思ったからです。また、そうでありたいと思っています。
  • 前々からAIについて興味があったので、非常に面白いと感じられる記事でした。古くは産業革命のときにも現代と似た現象が起きていたとは、驚きです。ニュースなどでは、なにかと人間を脅かす存在として取り上げられることも多いAIですが、逆にAIが新たな仕事の可能性にもなると知り、未来に希望を持つことができました。
  • 一般的にはAIによって多くの仕事が奪われて皆が無職になってしまうという危機論ばかりが語られていることが多いです。ですが、この記事では、AIによって新たな仕事が生まれる可能性も指摘していましたので、ためになりました。
  • これまで「仕事」として認識されなかったことが仕事になる、という部分に少し安心しました…。AIの発達により絶対的に必要な人間の労働力が減る→職がなくなる、と以前から感じてはいましたが、それに付随する仕事も産まれることにその通りだと思いました。自分がその職に就けるかは別問題ですが…。
  • ライターとして面白い着眼点や自由なアイディアを生み出せるかどうかという点においては、ライバルはAIであろうと人間であろうと変わらないのだなと思いました。知識があるだけでなく、自分の頭で考えて物事が判断できるかどうかが重要なのだと感じました。
  • AIの発展してきた歴史と、現時点におけるAIライターの技術の限界が良く分かります。野球の試合要約であれば、AIライターが行うことができると知り驚きです。これからライターとして生き残っていくためには、人間らしい発想力を磨く必要があると実感させられました。
  • わたしがこれまで読んできた「こぶたの鉛筆」の記事とは少し違った視点からのライターに関する内容で、読み物として面白かったです。ライティングを含め人間の力が活かせる能力を伸ばして、AI社会の到来を否定的な感情なく迎えられたら良いなと思いました。
  • AIにはいろいろな認識があるというのはビックリしました。AIが仕事を奪うというよりは新しいAIの登場により、やりがいのある仕事やAIを活用して仕事ができると思いました。これからもAIに負けないように頑張っていきたいです。
  • AIと聞くととても優秀で、今すぐにでも仕事を奪われるように感じていましたが、当面の間はだいじょうぶということが分かりました。AIライターがすでに活躍しているので、今後は独自の着眼点や個性的な文章でライターとして生き残れるように努力しようと思いました。
  • 最近頻繁に目にするAIは人間の仕事を奪うのかという問題を、産業革命との比較で考察している点が目新しく興味深かったです。webライターが今後も仕事を持ち続けるためにはどうすればよいかということにも筆者なりの答えが示してあり参考になりました。
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