執筆時に陥りやすい過ちとその改善方法を教えてくれる!名文家ふたりによる対談集

執筆時に陥りやすい過ちとその改善方法を教えてくれる!名文家ふたりによる対談集

ライターを志している者、あるいは実際にライティングでお金を稼いでいる人であれば、誰しも文章をスラスラ書けるようになりたいと思うはずです。頭の中に浮かんだ漠然とした考えを瞬時に理路整然とした文章としてアウトプットできるのならこんな楽なことはないでしょう。しかし、現実は厳しく、実際にはモニターを前にして文章をひねり出すのに四苦八苦している人が多いのではないでしょうか。そんな方におすすめしたいのが、『書く力-私たちはこうして文章を磨いた-』(池上彰、竹内政明/朝日新書)です。

文章の贅肉をそぎ落とす

本書はジャーナリストの池上彰氏とコラムニストの竹内政明氏というふたりの名文家による対談集です。この中でふたりは「読者が読みやすく、かつ印象に残る文章の書き方」について語り合っています。そこで出てくる答えは比較的オーソドックスなものが多く、そういう意味では決して独創的な意見というわけではありません。しかし、数多くの実績に裏付けされたその言葉には深い説得力があります。

例えば、削ることの大切さです。私たちは記事を書く時にどうしてもあれもこれもと内容を詰め込もうとしますが、それでは上手い文章はなかなか書けないと両氏は言います。そうした文章には余計な贅肉がついており、本当に言いたいことが読者に伝わりにくくなるからです。そこで、書いては削り、書いては削るという作業を繰り返すことで無駄のないスマートな文が書けるようになってきます。そして最終的に、全体を3分の2くらいに絞ると引き締まった良い文章ができあがると結論付けているのです。

言われればもっともだと思うのですが、同時に、無意識のうちに犯してしまいがちな過ちでもあります。本書はそうした気付きそうでなかなか気づかない執筆上の問題点に鋭くメスを入れているのが特徴です。

自分が知っている言葉で文章を書く重要性

記事を書く上での心得として「難解な言葉を使わない」というものがあります。これはもちろん、やたらと難しい言葉を使うと読者の理解を阻害してしまうからです。しかし、本書はそこから一歩踏み込んで「私はアイデンティティという言葉を使わない」という話がでてきます。これは少々意外でした。アイデンティティは世間でよく認知されている言葉であり、決して難解とは思えなかったからです。しかし、実際にアイデンティティとは何かと問われれば正確に答えられる人はどのぐらいいるでしょうか。ちなみに、自己同一性という答えでは単に日本語に訳しただけで何の説明をしたことにもなりません。このような自分にとって意味がはっきりとわからない腑に落ちない言葉を使っていると生きた文章は書けないと言うのです。

この発想は目から鱗でした。私たちは頻繁に使う言葉を簡単な言葉、あまり使わない言葉を難解な言葉だと認識しがちです。一方で、自分自身がその言葉を本当に理解して使っているのかという問題についてはあまり深く考えないものです。

文章を書く時も、なんとなくこういう文脈の中でよく使われているからという理由だけで安易に言葉を選んでいるケースが多いように思います。アイデンティティという言葉はその最たる例だと言えるでしょう。その事実に自覚的になり、言葉の取捨選択に慎重になれば、雰囲気だけの上滑りの文章ではなく、より読者に伝わりやすい文章が書けるようになれるのではないでしょうか。

気軽に読めて実用性の高い1冊

本書はライターにとってさまざまな気づきを与えてくれる本です。「無駄を削ることの大切さ」や「わかっていることをわかっている言葉で伝える重要性」といったこともその一例ですし、他にも、「簡潔であることと短いことは違う」「好きな表現は使ってはいけない表現でもある」「無理に奇をてらった話をしてはいけない」などといった鋭い指摘が並んでいます。ライターが陥りやすい失敗事例集を網羅しているとも言えるでしょう。

さらに、小難しい技術論ではなく、経験に基づいた話を噛み砕いて語っているために誰が読んでもわかりやすいところが、本書が良書たるゆえんあり、おすすめしたい理由です。極めて実践的な本であり、ライターの仕事に行き詰った時に読むと気づかされる点も多いはずです。

今回紹介した本について

  1. 書籍名:書く力 私たちはこうして文章を磨いた
  2. 著作者:池上彰、竹内政明

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みんなの感想文

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  • 簡潔に読み手に伝わりやすい文章を書くためのコツについて詳しく知ることができました。中でも、自分の言葉で文章を書くことの重要性に関して理解を深めることができたので、日々のライターの仕事にも役に立つと思います。
  • 興味深い内容でした。文章を書くときは余分な表現、冗長な表現を可能な限り削るようにと、改めて肝に銘じています。私の場合、文頭に「だから」とか「しかしながら」とか一見論理的に見えて実はまったく不必要な言葉をワンクッション置いてからでないと書けない傾向があり、見直しの際にあわててすべてを削っています。
  • 文章を書く際はどうしても文字数を気にして情報を追加してしまうのですが、「文章の贅肉を落とす」という内容は新鮮で、今後の参考にしたいと思いました。また、記事にもある通り、紹介されている本の価格がお手頃なのもうれしいことです。
  • ライティングで普段使用しないような難しい言葉などを使用するのは好ましくないんだなと知りました。人に伝える、人に伝わる文章を作るにはどうしたら良いのか参考になる本なのかなとも思えたので、一度読んでみたいと思います。
  • 文中の無駄な表現をそぎ落とすために必要なテクニックについて、丁寧に記されている点が良いと思いました。また、読者に伝わりやすく上手な文章を作成する際のポイントが抑えられており、実生活にも役立つと思いました。
  • この記事に書いてある本の説明が簡潔だったので、きっとこの本に書いてあることを参考に文章を構成されたのではないかと思います。文章を削って無駄をなくすことが苦手なので、一度手に取ってみたい本です。それほど難しそうでもないので、読みたくなりました。
  • 読み応えのある文章を書くために意識しておくと役立つことが書かれている本の紹介でした。無駄な部分を削ること、わかりやすい表現を使うこと、自分が本当には理解していない言葉は使わないことなど、なるほどなと思うことばかりでした。
  • 池上彰さんがテレビや雑誌などでよく拝見し、好きな方だったのでこちらの本もぜひ読んでみたいなと思いました。自分が知っている言葉で文章を重要性といった部分はとても面白そうだし、この本を通じて文章力を伸ばしたいです。
  • ライターが犯しやすい失敗の例が網羅されている本とのことで、ぜひ読んでみたいと思いました。ライティングスキルを上げるためには、「こうすると良い」というアドバイスだけでなく、「これはしてはいけない」というアドバイスも効果的だと思います。
  • この本、すごく読んでみたいと思いました。特にわたしは回りくどく文章を書いてしまったり、わかりづらい文章を書いてしまうことがあるので、無駄を省いでわかりやすく書くということに力を入れたいんです。この本は、文章力をつけるためにすごく役立ちそうだなと思います。
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