読書のふたつの側面を体現した速読と遅読

速読という読書スタイルが、まるで魔法のような便利な技術としてもてはやされた時期がありました。1冊の本を10分で読破できるとか、新しいページをひと目見ただけで、内容を理解できるとかいった話です。しかし、どうもそんな便利なものではないと分かってくると、アンチテーゼとして遅読という概念が提唱されるようになります。同時に、速読は浅い読み方だという批判も生まれてきたのです。しかし、実際のところ、速読と遅読とは、どのようなものなのでしょうか。

読書量だけでは身につかない考える力

世の中には、自分の読書量を誇る人がいますが、読んだ本の冊数に比例して賢くなるとは限りません。ただ、文字を追うだけで、そこから何も吸収しなければ意味がないからです。そこで、1冊の本からなるべく多くの事柄を学びとろうと考案されたのが遅読です。

遅読は、読むスピードにこだわらず、1ページ1ページ、書かれている文章の意味をかみしめながら、読み進んでいきます。気にいった文章をノートに書き出し、何か感じたことがあれば、本に赤線を引いて横に自分の考えを書き込んだりもします。時には、読書を中断して思索にふけったり、関連書籍を読み始めたりするのも遅読の楽しみ方です。

この読書法の根底にあるのは、本に書かれている知識を覚えること自体よりも、それをきっかけにして考える力を高めていくのが大切だという発想です。そのためには、読書は決して駆け足であってはいけません。急いでいては、文字を追うだけで精一杯で、何かを感じたり、考えたりする余裕がなくなるからです。遅読において、本は読み終えるためのものではなく、あくまでも思考のための触媒なのです。

飛ばし読みと速読の相違点

確かに、遅読の存在は、速読重視の中でこぼれ落ちていった読書の本質を思い出させてくれます。ただ、遅読をあまりにも神聖視すると、「速読は、飛ばし読みで見せかけの読書量を増やすだけの意味のない行為だ」と考えに陥ってしまいます。しかし、速読は決して無意味な行為ではありません。そもそも、速読と飛ばし読みは全くの別物です。

飛ばし読みは、文章の流れから自分にとって重要な部分とそうでない部分を判別し、後者を飛ばしながら読む行為です。全文に目を通して判断しているわけではないですから、実際には重要な事柄が書かれていて、それを読み落としてしなう可能性が多分にあります。それに対して、速読は1ページすべてを映像として脳裏に焼き付けます。すると、本を読みなれた人であれば、そこに書かれている文章の何割かは、自分の頭の中にある知識と照らし合わせて瞬時に理解してしまえるのです。嘘のような話ですが、本というものは、たとえ作者が異なっていても、意外と類似した内容や言い回しで書かれている場合が多いものです。そして、豊富な読書体験があれば、「このくだりはこのパータンか」とぱっと見ただけで書いている事柄がわかってしまう場合があります。これを訓練によって反射的に行えるようにしたのが、速読です。したがって、速読を行えば、例えば、全体の7割は一瞬で書かれている事柄が分かるので、残りの3割だけ意味の理解に努めればよいという理屈になります。逆にいうと、読書量の少ない人に速読は不可能です。頭の中の知識と照らし合わせても、理解できる部分がなく、結局、全部の文字を追わなければならなくなるからです。

速読の強みは、自分がすでに知っている内容に対して読書時間を浪費せず、知らない情報だけを効率よくインプットできる点にあります。

速読と遅読の使い分けが大切

速読の目的は、効率の良い情報の詰め込みです。そう言うと、あまり良い印象を受けないかもしれません。確かに、ただ本に書かれた知識を詰め込むだけでは、応用力が身につかないとは言えるでしょう。そういう意味では、思索に重きを置いた遅読の方が、優れた本の読み方のようにも思えます。しかし、そもそも何も知らなければ、本を読んだからといってそこから豊かな思考を育むのは困難です。逆に、多くの情報をインプットしていれば、それを材料として思考を広げていくことができます。つまり、このふたつは、どちらが優れているという問題ではなく、互いに補完し合う関係にあるのです。

 ライティングの質を高めるための読書法

ライターを目指す方にとって、この速読と遅読というふたつの読書法を身につけるのは、非常に意義のあることです。速読によって大量の情報を頭につめこめば、さまざまなジャンルの記事に素早く対応できます。そして、遅読によってその情報を自分の血肉として身につけられれば記事の内容も深みが増し、読者の心により強く訴えられるのです。ライティング能力を高めたいのであれば、ただ記事を書くだけではなく、読書の方法についても考えてみてはいかがでしょうか。

こぶたのまとめ

速読と遅読の効用

  • 新しい情報を効率よくインプットできる速読
  • 本を通して考える力を鍛える遅読
  • 両方をバランスよく取り入れることで質と量を兼ね備えた知識を身につけられる

ふたつの読書法を身に付け、ライティングの能力アップに役立てましょう!

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みんなの感想文

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  • 普段からデジタル文章に触れることが多くなり、本との距離が広がっていたのですが、やはり本を読むことでライティングにも良い影響を与えられるんだなと思いました。また、読み方にも工夫が必要なんだと実感しました。
  • 速読については、ある程度聞いたことがありましたが、遅読という言葉はこの記事で初めて知りました。これまで、速読するのに一生懸命でしたが、遅読にもとても重要な意味があるのですね。これからは自分自身も使い分けてライティングに生かしたいと思います。
  • 速読は本を読むのには便利だとは思っていましたが、実は遅読の方が頭に入る事が分かる記事です。多く本を読めば様々なライティング方法が身に付くのだろうと感じます。技術を吸収する事で、読者が読みやすい文を作れると思います。
  • 速読という分野は私にとって未知数だったのですが、実際に速読される方の意見を聞けて新しい世界で大変ためになりました。また速読とは逆の遅読の大切さも知れて読書を通じて考える力を鍛えるのも重視していきたいなと思いました。
  • 私は本に線を引いて考えながら読書するのが好きで、そもそも速読のスキルが無いことから、遅読タイプです。けれど、ライティング作業をするにあたっては、知識や情報を大量にインプットするために速読を身につけるのも得策なのだということがわかり、参考になりました。
  • 今まで速読と遅読についておおまかには知っていて、それぞれが助け合うということは初耳でしたがこの記事を読んでみて納得できる内容だと感じました。そして、今度本を読む時は相互関係を意識してみたいと思います。
  • 速読と遅読に関しては全く知りませんでした。普段はたまにくらいしか読書をしないので、これを機に読書をしようと思います。そして、新しい情報を身につけて文章にアウトプットして人に伝える力を身につけるために、インプットとアウトプットをしていこうと習慣にしていきます。
  • 私も昔、速読に挑戦したことがあります。ですが、書かれている内容の細部まで理解するには、じっくりと読む必要があります。ライティング能力を高めるなら速読と遅読を使い分けるのが大事だよなって、改めて感じることができました。
  • 今この記事を読むまで「遅読」という言葉を知らず、小学校から高校までの国語の時間で与えられた時間内に読み終わることができず落ち込むことが多々ありました。読書は好きなので本を読むのですがとにかく遅いです。読書好き仲間で話をしていても自分が遅れをとっていると感じることが多くありましたが、「遅読」という方法もあると知り安心しました。本以外の読み物は速読できるのに「なんで?」という疑問が解消できました。
  • 私はいわゆる速読法はできませんが、本から得られる知識はネットで得るそれよりも信頼性が高いと考えているので、速読法と遅読法を身に着ければ効果的に知識が見つかったり、蓄積されて、ライティングの仕事にも役立つだろうと思いました。
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