『新版 動的平衡: 生命はなぜそこに宿るのか』ー生命の論理は全てのビジネスプロセスを説明できるか?

新版-動的平衡-生命はなぜそこに宿るのか

生命現象をさまざまな領域に応用する試みが始まっています。現代文明は科学技術に支えられているのですが、20世紀後半以降、科学の持つ合理的な考え方では乗り越えられない問題が明らかになってきました。そこで、生物の持つ柔らかい論理に学ぼうとするわけです。

その際に、まず読むべき本が今回紹介する「動的平衡」になります。これは、分子生物学の研究者が解き明かす、科学の本質と限界を乗り越える方法です。一般の人たちにもわかりやすい文章で、次世代のものの考え方が解き明かされます。

仕事に役立つ考え方は生命に学べ!

どのような分野で仕事をするにせよ、巨視的な視点というのは重要です。日々の雑務に追われていても、いまの作業が将来に確実に結びついているという確信は、成功には不可欠な心理状態といえます。

そのときに必要になるものが「世界観」です。欧米系企業のマネージャークラスの話に「ビッグピクチャーを持て」というフレーズがよく出てきます。近視眼的な行為だけでなく、世界を見据えた鳥瞰的な視点の重要性を語る言葉です。「ビジョン」と言い換えてもよいでしょう。成功するには、世界をどのように理解しているのかが、問われるわけです。

機械論的世界観

これまでの世界観の基礎にあるものは「機械」でした。現代社会を作り上げている科学技術は、物事の成り立ちを説明するモデルとして「機械論」を採用しています。たとえば、西洋医学で人の身体を理解するときには、機械のように考えることが一般的です。機械は部品からできています。それと同じように、人の身体も部品からできていて、不具合が出れば交換すればよいと考えるのです。心臓や肝臓を移植する行為の基礎には、そのような機械論が横たわっています。人間の臓器は機械の部品と同じなので、他人の臓器を持ってきて取り替えることができるというわけです。

機械論的生命観の抱える問題

人間の身体を機械的に捉えることによって、外科的な医療が発達し、多くの人命が救われました。ところが、その機械論的な身体の理解が、さまざまな問題を引き起こしているのです。

たとえば「臓器移植」の問題があります。機械であれば、不具合の起きた部品を修理するか交換すればよいわけですが、人の身体の臓器の交換はさまざまな問題をはらんでいます。まず、臓器移植が成功しても、免疫抑制剤を一生飲み続けなければならない点です。人の身体には免疫という外敵から守るシステムがあり、他人の臓器をそのまま移植しても、拒否反応が起きます。そのため、投薬でなんとか誤魔化し続ける必要があるのです。

このような状態は、はたして健康といえるのでしょうか。もう1つの問題は、臓器が商品価値を持つ点です。臓器を違法に取引する犯罪ネットワークの存在が知られています。債務返済が困難になった人に対して、肝臓などの臓器の提出で弁済を求め、それを高値で売りさばくわけです。

また、合法的な行為でも問題が起きます。事故などのショックで脳が機能を停止しても、身体全体は生きていることがあります。これを「脳死」と呼ぶのですが、死んでいるのだから、臓器を取り出しても犯罪ではないという極端な解釈も成り立つのです。

科学技術が発達して、クローン人間が作れるようになると、もしもの時のために自分の分身を考える人もでてくるでしょう。自分の遺伝子から作られたクローンであれば、免疫系の拒否反応は起こらない点で、他人の臓器より有利です。ですが、そのクローンは「人間」なのか、「臓器工場」なのかという倫理的な問題も起きてきます。

機械論から生命論的な世界観へ

このようなさまざまな問題の根源を探っていくと、人間を機械のように理解していたことに行きつきます。根本的な世界の見方が誤っていたといえるかもしれません。そこで、人間を含む生命のあり方をもう一度考え直してみようというのが、この本のテーマである「動的平衡」論の目的です。生命とは、常に移り変わりながらバランスを保つ状態と定義されます。機械のように部品を取り替えるのではなく、部品そのものが生成と分解を繰り返して、常に少しずつ入れ替わっていくプロセスを「生命」と考えるのです。

動的平衡の世界観は、従来のものの考え方の根本に変更を加えてしまうため、どのような仕事であっても影響を受けます。そして、これまでの考え方に限界を感じていた人たちに大きく評価されているのです。たとえば、サッカー日本代表監督であった岡田武史氏は、組織論としての動的平衡の魅力に惹かれている1人です。

動的平衡を仕事で生かすための必読の一冊

著者の福岡伸一氏は分子生物学者でありながら、多くの著作を持つ文筆家でもあります。その著作の幅広さを見ても、動的平衡という考え方の汎用性がわかるのです。17世紀のオランダの画家であるフェルメールについての著作では、絵画を動的平衡的に論じています。

また、著作のみならず、ノーベル文学賞受賞者のカズオ・イシグロ氏、世界的なミュージシャンである坂本龍一氏などとの有名な知識人との対談もあります。動的平衡とタイトルがつけられた著作はシリーズ化しており、その考え方は時間を追うごとに深まっているのです。今回紹介した本は、シリーズ最初の著作となります。仕事の本質と新しい可能性を追求する人に、ぜひ手にとってみることをお勧めします。

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