仕事をするうえでの誇りと正義ー『空飛ぶタイヤ』が教えてくれること

空飛ぶタイヤ

仕事をしていると楽しい瞬間ばかりではありません。納得できないことや、苦しいこともこなしていく必要があります。しかし、誰かを傷つけてまで会社の利益を優先するよう命令されたら、あなたならどうしますか?

どんな職業であれ、職業人としての「誇り」や「倫理観」を忘れずにいたいところです。この記事では、会社員が働くうえでの誇りを問う、池井戸潤氏の『空飛ぶタイヤ』について解説していきます。

ドラマや映画にもなった『空飛ぶタイヤ』の内容は?

ベストセラー作家の代表作

『空飛ぶタイヤ』は、「半沢直樹」シリーズなどのベストセラーで知られる人気作家、池井戸潤氏の代表作です。テレビドラマや映画にもなっているので、タイトルを知っている人も多いでしょう。

物語は、中小企業である赤松運送のトラックが事故を起こすところから始まります。走行していたトラックのタイヤが外れ、歩行者に当たって死亡させてしまいました。赤松運送には「整備不良」とのバッシングが寄せられ、銀行も融資をしぶるようになります。得意先も離れていき、2代目社長の赤松徳郎は方々に頭を下げてなんとか会社を存続させようと懸命に努力します。

大企業に挑む中小企業の社長

ところが、事故には思わぬ不審点が浮かび上がってきました。大企業であるホープ自動車製造のトラックが、同じような事故を頻発させていたのです。赤松運送が運送に使っていたのもホープ自動車製でした。原因は整備不良ではなく、ホープ自動車の製造過程にあったのではないかと徳郎は考えるようになります。そして、警察もメディアも頼りにならない中、独自の調査でホープ自動車の腐敗した体質を浮き彫りにしていきます。やがて、わずかながら徳郎に協力してくれる人々も見つかり、彼は赤松運送の生き残りをかけた大勝負に打って出るのでした。

「会社」と「誇り」の狭間で揺れる人々に注目!『空飛ぶタイヤ』の見所は?

誇りとお金のどちらが大切か

『空飛ぶタイヤ』は実際に起こった大手企業の不祥事がモデルとされています。本作では、とにかく会社にとって都合の悪い事実は隠ぺいしようとする、日本的な大企業の実態が批判的に描かれています。しかし、それ以上に印象的なのは、「会社」と「誇り」の間で悩み、もがき続ける人々の姿でしょう。

たとえば、徳郎はホープ自動車から多額の口止め料と引き換えに、調査を止めるよう提案されます。会社を立て直すためには喉から手が出るほど欲しいお金ですが、人間としてのプライドが徳朗の首を縦には振らせません。

人間らしく悩む会社員に共感できる

また、ホープ自動車側の人間である、沢田悠太課長に共感を覚える読者もいるでしょう。沢田は将来を期待されているエリートですが、自社の不祥事を深く知ってしまいました。人としてはもちろん外部に公表すべきです。

ただし、出世を考えれば秘密にしておくのが得策です。しかも、上層部は沢田に「他言しないなら希望の役職を与える」とまで持ちかけてきます。沢田の葛藤はある意味で、直情的で純粋な徳郎よりも、日本人らしいといえます。キャリアや家族、収入や夢など、多くのものを手放してまで会社に逆らえるか、読者は沢田と一緒に考え込んでしまうでしょう。

仕事に迷ったときは徳郎や沢田を思い出して

状況に流されない生き方が大切

会社勤めをしていると、尊厳を踏みにじられるような瞬間に出くわす可能性があります。あるいは、自分自身が加害者の立場になる恐れも出てくるでしょう。倫理的に間違っていると分かっていながら、非道な行いに加担してしまう人もたくさんいます。

そうした会社員のすべてが、根っからの悪人だとはいえません。おそらく、家族などの守るべきものがあるからこそ、仕方なく会社の言いなりになってしまったケースが大半でしょう。しかし、多くの人が状況に流されてしまうと、結果的に会社は暴走してしまいます。ホープ自動車のように、日本社会で大きな汚点を残すこともありえるでしょう。

信念を持って仕事を続ける

『空飛ぶタイヤ』は「当たり前の職業意識」や「倫理観」を持って仕事をする意味を思い出させてくれる小説です。徳郎のように、一直線な生き方は難しいかもしれません。しかし、少なくとも自分の仕事に誇りを持ち、上層部の誤った判断や方針には疑問を抱くことならできます。

そして、会社の命令を鵜呑みにするのではなく、「本当に従っていいのか」と自分の胸に聞いてみましょう。日本ホープのような不祥事は、どこかで誰かが正しく動いていれば防げていたはずです。そして、読者自身がその「誰か」になれるよう、信念のある働き方を目指しましょう。

『空飛ぶタイヤ』は働き方を見直したい人にぴったり

多くの会社員が、不祥事や不正行為とは無縁のままキャリアを重ねていきます。『空飛ぶタイヤ』のような状況には遭遇しないまま、キャリアを終えるかもしれません。それでも、働くうえでの「誇り」を確認するには、ぴったりの小説だといえます。

「会社のため」「お金のため」だけに働くのであれば、いつか倫理から外れた選択をためらいもなく行ってしまう可能性があります。日ごろから自分の仕事に誇りを持ち、プロフェッショナルとしての意識を強く保っていれば、間違った道を進まなくて済むでしょう。くじけそうなときは徳郎の言葉や行動を思い出すのがおすすめです。1人の人間が抵抗するだけで、大きな悲劇を避けられることもありえるのです。

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