『究極の鍛錬』ー才能やセンスがない人が天才になれるのか?

究極の鍛錬

モーツァルトやタイガー・ウッズ、ビル・ゲイツやジャック・ウェルチなど世界的規模の業績をあげる「天才」たちは、普通の人々に比べて何が違うのでしょうか。

天才たちをみていると、天から偉大な才能を与えられ、溢れんばかりのセンスで成功を成し遂げているように思えます。それゆえ「努力を重ねただけ」という天才たちの言葉を嘘くさく感じる人も少なくありません。

しかし、天才たちの「鍛練」を分析すると、ある事実が明るみになってきます。

天才はいかにしてつくられるのか?

本書「究極の鍛錬」は、偉大な功績をあげた天才たちは才能やセンスに恵まれただけなのか、という誰でも持つ疑問について1つの回答を示しています。

本書の回答は「天才たちは人並み以上に鍛練を行っている」ということ。この事実は、常識的には理解できるものの、天才たちの逸話や伝説によって大きくゆがめられていると本書では述べられています。

それを証明するための1つの例が、イギリスのクラシック音楽の分野です。イギリスでは技量に応じて厳密な等級が設けられています。最高レベルの等級の演奏者たちは、誰もが認めるようなまばゆい才能を与えられているように思えます。

しかし、調査を行っていくと、この最高レベルに達した人々は、平均的には早熟の兆しが全く見られないことがわかります。一方、各等級別に過去に行った練習時間の平均を計算してみると、等級と練習時間にきれいな相関関係があります。要するに、等級が上になればなるほど努力と鍛練を重ねていたという、当たり前すぎる結論が導き出されるのです。

また、天才たちは単に努力の量が多いだけでなく質も高いと本書では述べており、このような「究極な鍛練」は、ある特徴を持つといいます。これらの特徴を踏まえて鍛練を重ねれば、誰もが偉大な業績をあげられるだろうというのが本書の結論です。また、自己実現やビジネスまで「究極の鍛練」は幅広く応用できるとも述べています。

原書の直訳は「生まれつきの才能は過大視されている」

本書が誕生するきっかけは、生まれつきの才能が過大視されているのではないかという著者ジョフ・コルヴァンの疑問でした。そのために、著者は最先端の心理学の研究成果を調べあげました。著者は心理学者ではありませんが、ジャーナリストとしてのキャリアが長く、天才がいかにつくられるのかというテーマをわかりやすく切り取ってくれます。また「モーツァルトも普通の人だった」「荒川静香の二万回の尻もち」など具体例で興味深いエピソードをとりあげているのも本書を読む楽しみの1つです。

天才を作る「究極の鍛練」とは

本書は、いかにして天才がつくられるのかというテーマを扱っていますが、これだけで終わらないところが本書の魅力です。広範な資料や実例を示した後、何が究極の鍛練であり、何がそうではないのかを分析しています。

究極の鍛練の要素には「実績向上のために特別に考案されていること」「何度も反復できること」「結果へのフィードバックが継続的であること」「精神的にとてもつらい・面白くない」などがあるといいます。

これらの要素は、たとえば、天才といわれているイチローを思い浮かべてみれば納得できるのではないでしょうか。もっと多くのホームランを打てる技術を持ちながら、イチローはヒットを重ねることに特化したスタイルを貫いています。また、イチローのトレーニングの一貫性やバッターボックスでのルーティンはあまりにも有名ですし、結果に応じてバッティングフォームを改造することでも知られています。

そして、これらの作業についてイチローは、ほとんどがつらく、面白くないことだというコメントを残しています。本書では、天才たちの鍛練の要素を詳しく解説しているので、天才に共通する要素を発見できるはずです。

また、本書では、「音楽モデル」「チェスモデル」「スポーツモデル」など究極の鍛練を効果的に適応するための応用方法も提案しています。卓越した企業がどのように究極の鍛練を応用しているのか、具体例も示しているので、ビジネスの観点からも啓発される内容が多いでしょう。

正しいベクトルで努力しているかチェックしよう

本書は、何年も実務経験のある会計士と訓練を受けたばかりの会計士の能力はさほど変わらないという例からはじまっています。残念ながらこれは事実です。経験を積むことで能力が落ちることすらあるとも著者は述べています。

一方、傑出した成果をあげる会計士もなかにはいます。この違いには、地道な努力を積み重ねているという当たり前の事実もありますが、細かく分析すれば、正しい努力のベクトル、といったものが存在することもわかります。

また、厳しい鍛練を継続するには、内的な動機づけが必要であり、自分を信じることも重要です。いまひとつ成果を得られないビジネスパーソンや、革新的な成果を出した天才たちが行っている鍛練を知りたい人は得ることの多い本になるでしょう。

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